=======================903text0809/1011======================= 2019新春対談 歌人 たわら まち 宮崎市長 とじき ただし 宮崎で暮らす ということ 2019年新春の特別企画として、宮崎市に移住して間もなく4年目を迎える 歌人・たわら まち さんと とじき市長の対談をご紹介します。 宮崎市での暮らしやまちづくりをテーマに、移住者や歌人としてなど さまざまな視点から語り合っていただきました。 温かい人柄と豊かな食 幸せの基本がここにある とじき市長 今年は元号が変わる節目の年として、市としても新たな取り組みをしなければならない1年だと考えています。そこで たわらさんに、宮崎に対する思いや将来像について率直なご意見をお聞きしたいと思います。  2016年4月に沖縄県石垣市から宮崎市に移住されたとのことですが、それ以前にも宮崎市とのご縁はありましたか。 たわらさん はい。私は14歳まで大阪で育ったのですが、隣家のご夫婦が宮崎の出身で、とてもかわいがってもらいました。初めて宮崎を訪れたのは1993年です。その後、2006年に わかやま ぼくすい賞を受賞した時も来ましたし、また宮崎市が創設した いわきり しょうたろう賞の選考委員もさせていただきました。いとう かずひこ先生をはじめ短歌の仲間も多くいます。   とじき市長 実際に宮崎市に住んでみた印象はいかがですか。 たわらさん 人がとても優しいですね。ちょっとした心遣いを受けることが多いと感じます。それから食べ物がおいしい。食の豊かさは本当に素晴らしいです。中学生の息子は宮崎の自然をとても気に入って、満喫しています。 とじき市長 それはうれしいですね。食については普段から食べ慣れているので、あまりぴんと来ないのですが。 たわらさん 私が「野菜がおいしい!ちゃんと味がする!」と言うと、宮崎の人からは「いやいや、野菜ってこういうものでしょ」とよく言われます。魚も新鮮なものが手に入りますし、うし ぶた とり といった畜産も盛ん。果物やお米もおいしい。家で食事をするときに、今日は全部宮崎の食材だなぁと思うことがよくあります。人間の幸せの基本が宮崎にはあると感じています。 不便を楽しむ旅や 「関係人口」 を増やす工夫を とじき市長 宮崎の観光について伺います。旅行客からは交通の便が悪い、観光地が離れていてアクセスが悪いといった声が聞かれます。 たわらさん そもそも旅に効率を求めるという考えが私は違うような気がします。観光地を効率的に回るということより、むしろ都会にはない不便を楽しむくらいの気持ちで宮崎を旅してもらっていいのではないでしょうか。 とじき市長 そうですね。旅とは本来そういうものだと思います。宮崎の旅は「ゆったり」をキーワードにしてもいいかもしれません。 たわらさん そのためには、受け入れる側は旅行者に不便を感じさせるのではなく、ゆったりとした時間を楽しんでいると感じてもらえる工夫が必要だと思います。 とじき市長 旅行だけでなく、たわらさんのように移住したいと思ってもらうためには、どうすればいいと思われますか。 たわらさん 旅人以上・移住未満の人たちを指す「関係人口」という言葉があります。あるイベントで毎年訪れるとか、よくサーフィンをしに来るといった、宮崎に「関係」している人たちのことです。   関係人口は、その土地の人とのつながりや土地勘も生まれ、結果としてスムーズに移住ができると言われています。私自身がそのような移住の仕方でした。宮崎にはさまざまな関係をつくれる素材がありますので、関係人口を増やしていく取り組みをされるといいのではないでしょうか。 とじき市長 多くの人に宮崎と関係をつくってもらい、良さを発信してもらうことが大事ですね。たわらさんのご意見を参考に、長期的な取り組みをしていきたいと思います。 まずは大人が気付くべき 「何もない」 わけではない とじき市長 今年度は市内の中学生と話をする機会を多く設けているのですが、「宮崎には何もないですよね」と言われたことがありました。だから 「高校を卒業したら県外の大学に行って帰ってこないかもしれません」 と。若者に対して魅力あるまちづくりも課題の一つです。 たわらさん 何もないというのは、大人がそう思っているからではないでしょうか。宮崎の魅力に大人が気付かなければ、子どもは気付きようがないかもしれません。まずは大人が「〇〇があるよ」と答えられることが大事だと思います。  また一度県外に出てみることは、宮崎の良さに気付くきっかけになる気がします。県内で進学するにしても、宮崎だからこそできるという研究や開発を、産学官が一緒になって積極的に行うことも大事だと思います。 とじき市長 なるほど。大人が宮崎の魅力を再確認して、しっかりと子どもに伝えていかなければいけませんね。現在宮崎大学では、地方創生について学んでいる学生がさまざまな取り組みを行っています。進学などで県外に出たとしても、また戻ってきたいと思わせるようなまちづくりを推進していきたいと思います。 たわらさん 横浜に住んでいるおいがよく遊びに来るのですが、「こっちの時間は濃い」と言います。宮崎の人にとっては当たり前のことかもしれませんが、青島でサーフィンをしたりキャンプでたき火を楽しんだりすることが気軽にできるというのは、都会に住んでいる子どもにとってはとてもぜいたくな体験。もっと大人が積極的に宮崎の魅力をアピールしてもいいのではないでしょうか。 スポーツと文化を融合 宮崎を「短歌県」に とじき市長 宮崎市のまちづくりの課題の一つが、中心市街地の活性化です。市ではアリーナ構想もあり、JR九州や宮崎交通と一緒にみやざき駅を中心としたまちづくりをしようとしています。芸術的・文化的な面で何かアイデアはありますか。 たわらさん 歌人・わかやま ぼくすいの出身地でもありますし、宮崎を「短歌県」にしてはどうでしょうか。まさおか しきの出身地の愛媛県は、俳句ポストがあり、俳句甲子園や県民俳句大会が定着している「俳句県」です。宮崎も「ぼくすい・短歌甲子園」を開催していますし、他県にはない文化的な特徴がアピールできれば素敵だと思います。 とじき市長 確かにそうですね。スポーツにはかなり力を入れているのですが、芸術的・文化的なもので盛り上げていくことも大切ですね。 たわらさん 文化とスポーツを分けて考えなくてもいいと思います。例えばスポーツと短歌を組み合わせたイベントなどをしてみてはいかがでしょうか。 とじき市長 それは面白いですね。プロ野球のキャンプでも、選手を見るだけではなく、見た感想を短歌に詠んでもらうのもいいかもしれません。 たわらさん 子どもたちにはなるべくそのような体験をしてほしいです。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(会員制交流サイト)などで短い言葉で発信することに慣れていることもあり、短歌は今、若者の間で盛んです。昨年のぼくすい・短歌甲子園では宮崎西高校が優勝しましたし、宮崎大学には学生短歌会があります。宮崎の若者の創作レベルは高いと感じています。 とじき市長 市内にもいくつか わかやま ぼくすいの歌碑があります。高校生や大学生が頑張っているのであれば、それにスポットを当てるのもいいかもしれません。 たわらさん 宮崎で育ったらなんだか知らないけれど、何かにつけ短歌を詠んでいたという子ども時代を過ごせば、子どもにとって財産になりますし、多くの短歌が生まれれば宮崎にとっても財産になると思います。 住んでいるからこそ分かる 宮崎の魅力を伝えたい とじき市長 最後に市民の皆さんにメッセージをお願いします。 たわらさん 皆さんに温かく迎え入れていただき、本当にお世話になっています。私は移住して3年で、まだ宮崎を外から見る目を持っていると思います。ですから、皆さんが気付いていない宮崎の魅力を発見して伝えていきたいですし、皆さんにしか分からない良さを教えていただければと思っています。 とじき市長 今後の市政運営の参考になる貴重な意見をいただき、ありがとうございました。たわらさんのますますのご活躍を期待しています。宮崎での暮らしをこれからも楽しんでください。 対談の動画はQRコードから たわら まち 1962年(昭和37年)、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。学生時代に ささき ゆきつな氏の影響を受け、短歌を始める。1988年(昭和63年)、『サラダ記念日』で第32回現代歌人協会賞、2006年(平成18年)『プーさんの鼻』で第11回わかやま ぼくすい賞を受賞。歌集・エッセーなど著書や受賞歴多数。2018年(平成30年)、評伝『ぼくすいの恋』を出版。日向市で開催されている「ぼくすい・短歌甲子園」の審査員も務める。 『ぼくすいの恋』文藝春秋発行 わかやま ぼくすいが早稲田大学の学生時代に出会った女性との恋に焦点を絞った評伝。資料や書簡を丹念に調べ、斬新な切り口で ぼくすいの実像に迫った1冊。 たわら まちさんのサイン入り本書を5名様にプレゼント。 詳しくは24ページをご覧ください。