特集1 しあわせ人生計画 ~介護サービスの現場から~ 誰にも必ず訪れる「老い」。事前に必要な準備をしたり、心身の変化に合わせたサービスを活用したりすることで、私たちはいつまでも生き生きと過ごすことができます。介護サービスの現場で、そのヒントを探りました。 問い合わせ先 介護保険課電話21-1777 長寿支援課電話21-1773 ファックス番号31-6337(共用)  [1レポート] 私の介護サービス活用法  介護サービスと一口に言っても、その内容は十人十色。上手に活用することで、喜びや生きがいを得て暮らしている3つのケースを取材しました。 メモ 介護サービスを利用するまで 介護給付の対象者(要介護1から5) 相談・契約 居宅介護支援事業所 ●ケアマネジャーによる課題分析 ●サービス担当者との話し合い 計画の作成 サービス事業所と契約 介護保険の介護サービスを利用 予防給付の対象者(要支援1から2) 相談・契約 地域包括支援センター ●保健師などによる課題分析 ●サービス担当者との話し合い 計画の作成 サービス事業所と契約 介護保険の介護予防サービスを利用 介護予防事業(地域支援事業)の対象者 相談・契約 地域包括支援センター ●保健師などによる課題分析 ●サービス担当者との話し合い 計画の作成 サービス事業所と契約 地域支援事業の介護予防事業を利用 ケース1 「自宅で長く暮らしたい」 横山さん夫妻の場合 エアロバイクや散歩などの運動から、野菜の栽培、裁縫、模型飛行機作りといった工作に至るまで、横山さん夫妻が利用しているデイサービスは実に多彩。「それまでは1人で運動はしていたものの長続きせず、つえをついてもフラフラ。体力が落ち、家の中で転倒するなど怖い思いをすることもありました」という横山さんは、主治医からデイサービスの話を聞き、週1回、今の施設に通い始めたそうです。 さらに、地域包括支援センターの助言で、住宅改修にも着手。家の周りの段差の大きい箇所や浴室には手すりを設置。外出を容易にするために、玄関にスロープを設置しました。「デイサービスで少しずつ体力が付き始め、改修のおかげで怖い思いをすることも減りました。近くに住む息子たちも安心してくれています」と笑う2人。できるだけ長く自宅で暮らしたいという願いを、着実に形にしています。 スタッフメッセージ  介護サービスの住宅改修では専門相談員が、手すりの本数や設置箇所など細かく要望を聞き取りました。特に玄関はずいぶん使い勝手がよくなったそうで、私たちもうれしく思います。 山本恵美子さん (大宮地区地域包括支援センター) 駐車場の出入りが便利になったと話す横山さん夫妻 段差が大きかった裏口にも手すりを設置 デイサービスに通うのが楽しみになりました ケース2 「ずっと料理を楽しみたい」 日高さんの場合 「白和えを作るからゴマをすってもらってもいいですか?」「はーい」。ヘルパーさんと日高さんの小気味よいやりとりがキッチンに響きます。日高さんは週4回、ヘルパーさんと二人三脚で自分と夫の食事を調理。一緒にメニューを考えたり、料理中に2人で冗談を言い合うなどして会話を楽しむことが、日高さんの新たな生きがいになっています。 娘さんが母・日高さんの変化を感じたのは約1年前。鍋を焦がしたり、同じ食材しか買わない様子を見た家族がケアマネジャーに相談したところ、ヘルパーさんとの共同作業を提案されました。第三者が入ることで心地よい緊張感も生まれ、「いつもハッスルしてやってくれるからありがたいわ」と、日高さんからはヘルパーさんにねぎらいの言葉も。手際よく作られる多彩で豊富なメニューには、家族も満足されているとのことです。 スタッフメッセージ  ヘルパーの関わり方によっては、本人のできることが増えたり、家庭での役割が増えて自信につながったりします。いろいろな介護の形があることを知ってほしいですね。 大石美香さん (宮崎北慶明会在宅介護支援センター) にぎやかに声を掛け合いながら料理する2人 「利用者との会話が大切」という訪問介護員の中村さん 既製品や残り物も活用しながら毎食4から5品を作ります ケース3 「散歩できる体でいたい」 若松さんの場合 79歳で運転免許を返納するまでは、よく夫婦で長距離のドライブを楽しんでいた若松さん。外出の機会が少なくなり体力の衰えを感じ始めました。小さな段差でもつまずくようになった若松さんは「このままでは寝たきりになる!」という危機感から、地域包括支援センターを介してリハビリ施設での訓練を始めました。 「自分のことは自分でやりたかったので、こうした施設に通うことに抵抗がなかったわけではありませんが、理学療法士の先生に何の訓練をどれくらいすべきか的確に教えていただけるので、すぐにやりがいを感じました」という若松さん。家の周りを歩けるようになることを目標に、今は週約2回の訓練をこなし、つまずく回数も減ってきているそうです。「施設を勧めてくれたのは娘です。意地を張らず、子どもの言うことを素直に聞いたのがよかったかもしれませんね。今では自宅よりここの方が楽しいです」と笑います。 スタッフメッセージ 自分の体力が今のままだとますます衰えるということを、若松さんが自覚されたことが大きなきっかけになりました。私にもまめに経過を報告してくださり、ありがたいです。 椎屋貴文さん (赤江南地区地域包括支援センター) 歩行訓練のおかげで足が上がるようになってきたそう トレーニング内容は理学療法士が個人に合わせて作成 施設が自宅から近いのも通いやすい一因になっています  [2インタビュー] 介護サービスのこれから 多様な介護サービスの相談窓口である地域包括支援センターやケアマネジャー。スタッフの皆さんに、これからの介護サービスの在り方について聞きました。 自分の人生をデザインできるのは他の誰でもない自分自身。ぜひ元気なうちに判断してほしいです。 地域包括支援センターではどんなことをしているのですか? 椎屋 センターでは、地域の皆さんがいつまでも心身ともに健やかに生活していけるよう、病院からの紹介で介護保険申請の手続きを行ったり、相談内容に応じて適切な機関やサービスを案内したりしています。 山本 相談そのものが役に立った例もありますね。知人の勧めで相談に来られた70代の女性は、体に不調はなかったのですが、実はご主人やご兄妹を亡くし、身寄りがなくなった自分に万一のことがあっては、と不安が募っていました。終末期に備えて自身の希望を書き記しておくエンディングノートのことを伝えると、「今、自分がすべきことが分かった」と、とても安心されていました。 最近の相談の傾向は? 山本 家族環境の変化からか、東京や大阪など遠方に住むご家族から「宮崎にいる母親の様子が心配です」などと相談を受けるケースが増えてきています。 岡部 「県外にいる親を呼び寄せたい」とか、「県内の山間部にいる親を中心部に移住させたい」という声もよく聞きます。でも、当事者である親にはまだ話をしていない場合が多いんですよ。介護サービスの利用者の多くは80歳以上。今は元気にしていても、体調の変化や不測の事態が起こりうることを考えると、いざというときにどうするかを事前に家族で相談して決めておくことが大切なのですが…。 大石 本人の意向がはっきりせず、家族も判断しかねた末、「お任せします」ということになって、私たちも困ってしまうという事態に陥ることもありますよね。 山本 さらに、本人が認知症などで意思を上手に伝えられない状況だと、せっかくの介護サービスも利用開始までに時間が掛かってしまいます。 問題はどこにあるのでしょう? 大石 介護が必要な状況でも自分で何とかしようとする人が多いため、家族も気を使い、気付かないふりをして先延ばしにしてしまいます。すでに要介護状態なのに介護保険は申請されず、いよいよどうにもならなくなってから相談に来られたケースもありました。 椎屋 事前の話し合いは、いわば「転ばぬ先のつえ」。将来の不安に対して、自分で判断しにくくなる前に対策を立てておいてほしいと思います。 元気に年を重ねるために市民の皆さんに意識してほしいこととは? 山本 私は今、子育てに励んでいる30代から40代の皆さんに地域包括支援センターを活用してほしいと思っています。その世代の親はおおよそ50代から60代。まだまだ元気だけど、将来のことや介護予防について一緒に考えるのにいい時期ですし、育児真っ最中の人にとって親が元気でいてくれることは、子育ての助けにもなるからです。 椎屋 まずは気軽にセンターを利用してほしいです。センターにはたくさんの情報があるので、目の前に不安材料がなくても、相談さえあれば将来どんな支援が必要かイメージしてもらうことができます。 大石 できるだけ多くの皆さんと面談し、何が課題なのかを見極めていきたいですね。 岡部 自分や家族の状況は年とともに変化していきます。それに合う施設やサービスを活用すれば、暮らしにゆとりや生きがいが生まれます。いくつになっても楽しく過ごすために自分の人生をデザインできるのは他の誰でもない自分自身。ぜひ元気なうちに判断してほしいです。 ケアマネジャー おおいし みかさん 宮崎北慶明会在宅介護支援センター 保健師 やまもと えみこさん 大宮地区地域包括支援センター ケアマネジャー おかべ ともひろさん ケアホームふじき 社会福祉士 しいや たかふみさん 赤江南地区地域包括支援センター 思いに寄り添い、安心感を抱いていただくことこそが大切 先日お会いした95歳の女性は、同居中の息子さんに出張が入り、1人で留守番することになってとても不安だったそうです。「いつでもご連絡くださいね」とお電話したところ、とても安心したと言ってくださいました。サービスとしての介護はいろいろありますが、それはあくまでも心配ごとを取り除くための手段。結果として、暮らしに安心感を抱いていただくことこそが本当の意義だと思います。そのためには、私たちはもちろん、家族や地域の皆さんも一緒に、介護を必要とされる人の思いに寄り添っていくことが求められます。 例えば、大正から昭和初期に生まれた女性には、嫁入りの際に仕立てられた着物を大切にしている人が多くいます。自分の分身のように愛してきた着物だからこそ、誰かに託したい思いも強い。その思いに寄り添い、元気なうちに一緒に整理しながら託す相手を決めることも、介護の一つです。家族であっても難しいことですが、少しのやりとりを続けることによりギャップが埋まり、互いの考え方も分かります。皆さんも、自分や家族の幸せな人生について考えてみませんか。 市介護支援専門員連絡協議会 会長 ケアマネジャー 坂本増美さん 介護保険課 法律 費用負担が変わりました 平成27年8月1日から介護保険の費用負担が変わりました。 ①負担割合  一定以上の所得のある人は、介護サービスを利用した時の負担割合が1割から2割になりました。 ②高額介護サービス費・負担上限  世帯内に現役並みの所得がある高齢者がいる場合、月々の負担(1割または2割)の上限が37,200円から44,400円になりました。 ③食事・部屋代の負担軽減基準  食事・部屋代(室料+光熱水費)の負担軽減を受けられる人が、非課税世帯のうち預貯金などが少ない人に限定されました。 ④部屋代の負担  特別養護老人ホームの相部屋(多床室)に入所する課税世帯の人などには、部屋代を負担していただくことになりました。  介護サービスを利用するためには、要介護・要支援の認定を受ける必要があります。まずは、お近くの地域包括支援センターを利用していただくか、介護保険課に問い合わせてください。 主事 松田ともろう