特集 おいのじゅんびできていますか?  誰にでも必ず訪れるおい。今は現実的でないとしても、いずれ介護や認知症と向き合う日がやってきます。大切な家族、そして自分のおいについて、しっかりじゅんびしませんか。 問い合わせ先 長寿支援課   電話21-1773、ファックス番号31-6337 人は誰もが必ずおいるもの。 家族は受け入れるじゅんびを。 宮崎市認知症地域支援推進員 大迫健二さん  ある40代のAさんから、一人暮らしをしている母親のことで相談がありました。聞くと、80代の母親は買い物に行くと同じものをいくつも買ってきたり、買った品物を玄関に置きっ放しにしたりするなど、認知症の症状が現れていたようです。そのような症状で車を運転するのは危険ですので、私はAさんにアドバイスをし、母親は運転免許を返納することができました。  一方で、Aさんと相談して計画した介護サービスを、母親がなかなか利用してくれないとのこと。利用を拒むケースはよくあることです。その場合はケアマネジャーとAさん、母親が信頼関係を築き、少しずつサービスを利用できるように促していきます。しかし、Aさんは「一人暮らしが心配なので利用してほしいんです…」と言うものの、行動にできないまま3年がたってしまいました。  私は母親のおいを受け入れられないAさんに迷いがあるのではと思い、Aさんと話をしました。すると「母と介護サービスを結びつけることに抵抗があり、私の方が積極的になれなかった」と、胸の内を明かしてくれました。私は、介護サービスができるだけ自宅で長く過ごせるようにするための手段であることを説明。母親をデイサービスへとつなげることができました。  しかし、この3年で母親の認知症は進行していました。Aさんがもう少し早く母親のおいを受け入れられていれば、症状がもっと軽い状態から利用できるサービスがあったと思います。  人は必ずおい、家族もそれを受け入れざるを得ない時がやってきます。そのためにも、元気なうちから知識を得たり、老後について話をしたりして、家族とともにおいのじゅんびを進めてほしいと思います。 大迫健二さん 市内に2人いる認知症地域支援推進委員の1人。認知症の人が住み慣れた地域で安心して暮らし続けていけるよう、医療機関や介護施設などと連携して、認知症の人やその家族を支援している。 「介護した経験はありますか?」 ある50% ない50% 「ある」と回答した人が半分を占め、介護が私たちの身近なテーマであることを示しています。 市広報みやざき2017年1月号 ウェブアンケートより 「将来自分が介護されることの不安はありますか?」 ある80% ない20% 介護される不安を多くの人が抱えています。知識を備え、安心感に変えていく必要があります。 市広報みやざき2017年1月号 ウェブアンケートより おいは人ごとではありません 長寿支援課主査 根井千代美  市では今後、生産年齢人口(15歳から64歳)が減少する一方、高齢者人口(65歳以上)は増え続けます。これは、介護や認知症が高齢者本人だけでなく、働き盛りの世代にも密接に関わってくることを意味しています。 将来推計人口 2010年 高齢者率 約20%未満 2025年 高齢者率 約30.5% 2040年 高齢者率 約35.8% 3人に1人が高齢者!  少子高齢化は今後さらに加速し、団塊世代の人が75歳以上を迎える2025年には、社会保障費の増大や介護・福祉に関わる人材の不足といったさまざまな問題が起こるといわれています。 要介護・要支援認定者数 2010年 60歳以上人口 84,712人 要介護等認定者 13,303人 2015年 60歳以上人口 101,185人 要介護等認定者 17,274人  市では、65歳以上の人口が2010年から2015年までの6年間で1万6000人以上増加。要介護等認定者も約4000人増えている状況です。 認知症高齢者数 2010年 8,132人 2014年 10,282人 4年で1万人突破! ※資料:介護保険パンフレット  市では2014年に認知症高齢者が1万人を突破。国は2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると報告しており、今後も増え続けていくことが予想されます。 おいのじゅんび、できていますか? 私たちがこれから向きあっていくこと  おいのじゅんびをする上では、これからどのような状況と向き合っていくのかを知ることが大切です。ここでは地域包括支援センターなどの窓口で対応したさまざまな事例を紹介します。 事例1 うつ病だと思って病院を受診し、薬を服用していたが、なかなか薬が効かない。別の病院で見てもらったら、うつ病でなく認知症だと分かった。 解説 うつ病は仮性認知症といって、症状が認知症と似ています。薬が効かないなど症状に変化が見られない場合は認知症専門医の診断を受けましょう。 事例2 一人暮らしの高齢者宅に怪しい業者が出入りしているのを地域の人が発見。詐欺被害の判明と合わせて、高齢者本人の認知症も判明した。 解説 地域の人の「おかしいな」という気付きが、犯罪や認知症の発見につながる例は少なくありません。高齢者の見守りには地域の目が欠かせません。 事例3 90歳の女性は、認知症の症状があり、病院を受診する必要があるにもかかわらず受診している様子がない。スタッフが訪問すると、室内にゴミが散乱するなど生活が破綻していた。 解説 介護サービスの利用や病院の受診は、本人の意志を尊重した生活をしてもらうためのものです。自宅から切り離す手段ではないことを理解してほしいです。 事例4 身の回りのことがうまくできなくなった母に娘が病院での受診を勧めるも、かたくなに拒否。かかりつけの医師から専門医の受診を勧めてもらったことで本人も納得した。 解説 認知症の初期は思うようにできないことを自覚し、漠然と不安を感じています。それを理解した上で、信頼している人と協力して接することが大切です。 事例5 もの忘れが多くなってきた父親を、家族は「歳をとったせいだろう」と思い込み、認知症かどうかは気に留めなかった。その結果、認知症の症状が進んでしまった。 解説 もの忘れは、認知症やその他の病気が潜んでいる可能性を示すサインです。歳のせいだと安易に判断せず、かかりつけの医師や専門医の診断を受けることが大事です。 事例6 足が不自由な父親が自宅から出ようとせず、子どもも対応に困っているうちに運動機能の低下が進み、認知症も重なってますます介護が必要な状態になってしまった。 解説 介護サービスへの不安から、利用を拒む人は少なくありません。地域包括支援センターと協力しながら理解を深めていくことが重要です。 こんなに大切だった「早期発見」!  いつまでも住み慣れた地域で安心して生活するためには、おいによって生じる兆候をいち早く発見し、対応することが大切です。全国で活動する認知症初期集中支援チームのデータから、早期発見の重要性を紹介します。 認知症初期支援チーム  在宅で生活している40歳以上の人で、認知症が疑われる人や認知症で医療や介護サービスを受けていない人を対象に、地域包括支援センターからの情報を受けて訪問。なるべく早期に介入し、医療や介護に結びつけることで認知症の進行を防ぐ活動を行っています。最長6か月間、本人や家族をサポートします。 【対象の約半数が困難事例】 困難事例の割合 該当する 46.2% 該当しない 50.8% その他 3%  チームに情報が入った段階で、対象者の約半数が既に重症化。もっと早く相談があれば、対応の幅も広がった可能性があります。 【相談者は本人の家族が多数】 把握ルート 本人の家族 37.4% ケアマネジャー 10.8% 医療機関 6.6% 民生委員 6.5% 近隣住民 4.7% 本人 2.9% その他 31.1%  民生委員やケアマネジャーからの相談もありますが、最も多いのは本人の家族です。早期発見には家族の協力が不可欠です。 【8割がサービスの利用なし】 介護サービスの利用状況 利用なし 77.4% サービス利用 17.3% かつて利用 2.6% その他 2.7%  対象者の8割は、チームの介入まで介護サービスの利用もなく、適切な対応が取られていなかったことがうかがえます。 認知症と判断できなくても、普段との違いを感じたらぜひ相談を! 宮崎市認知症地域支援推進員 おおうえともこさん 進めようおいのじゅんび ①暮らし方を変える おいを受け入れながら楽しんで暮らすカギを握るのは「モチベーション」 これから向き合うべきことが分かったら、具体的なじゅんびを進めましょう。 まずはできるだけ長く自宅で健康に暮らせるよう、介護予防に取り組むことです。宮崎県認知症疾患医療センターのうだがわ先生に聞きました。 プロフィール 宮崎県認知症疾患医療センター(野崎病院内) うだがわみつたかセンター長 宮崎市認知症初期集中支援チームの一員でもあり、認知症や精神疾患に関する講演などの活動も行っている。 「暮らし方を変える」3つのポイント 毎日を楽しむこと 家族の協力が大切 なるべく早期に受診を うだがわ先生は多くの認知症の人やその家族と関わっているそうですが、認知症と向き合っていく上で大切なことは何でしょうか。  普段の診療でよく目にするのですが、もの忘れがあっても、仕事を一生懸命している人や、趣味を持つ人、周囲との会話がある人は認知症になりづらかったり、認知症になっても進行が比較的遅かったりします。脳の神経細胞は数だけでなくネットワークが重要で、頭や体を使って脳細胞を活性化することが大切です。テニスでも、ゴルフでも、孫とのゲームでもいいです。どんな活動でも、周囲とコミュニケーションを取り、時に競争心を持ちながら毎日を高いモチベーションで楽しむことが大切だと思います。一人では意欲や方向づけができないこともありますので、家族の協力があるといいですね。 どう暮らすかが大切だということでしょうか。  そうですね。認知症になる前はもちろん、仮に認知症になったとしても症状が軽いうちに、毎日を高いモチベーションで楽しめるよう、いかに暮らし方を変えられるかが重要です。 そう考えると、早期発見の大切さが分かりますね。  その通りです。おいには個人差がありますが、日本の統計では年代ごとの認知症有病率が60代で数%、70代では13%、80代では40%と増えていて、年齢とともに認知症の状態になりやすくなることが分かっています。認知症といってもさまざまな種類があり、中には治療をすることで劇的に改善するものもありますので、早期発見はとても重要です。 認知症の症状がなかなか改善しない場合どうすればいいですか。   医師の治療を受けることで症状の進行を遅らせたり、自分らしく穏やかに暮らしていくためのアドバイスを受けたりすることができます。画像検査を含め、一度はきちんと専門病院で診察してもらうようにしましょう。そうすることが、自宅で暮らせる期間を長くし、自分らしく楽しい暮らしを続けられることにつながります。また、医療や介護にかかる費用も軽減でき、経済的にもメリットがあると言えるでしょう。 ポイント 自分がモチベーションを高く持てるものであれば、運動でも何でもOK。それが家族のモチベーションにもつながっていく。 決して上手じゃないけれど仲間と体を動かしながら過ごす時間が好き! いつも楽しそうだね。 これからも応援していこう。 認知症疾患医療センターをご存じですか?  認知症疾患医療センターは、国が整備を進めている地域の認知症医療の拠点となる病院です。本人や家族などからの認知症に関する相談や、診察、治療などを行なっています。また、地域包括支援センターや、介護保険事業所などとの連絡・調整も行っています。 疑問:受診の流れについて教えてください。 ①診察は予約制です。まずは電話でお問い合わせください。 ②精神保健福祉士・看護師が対応し、本人の最近の様子を伺います。 ③診察の日程を調整します。 ④診察日に各種検査と診察を行います。 疑問:どんな検査があるのですか?  頭部MRIやCTによる画像診断、認知機能検査、血液検査を行い、最後に専門医が診察します。 疑問:問い合わせ先を教えてください。 宮崎県認知症疾患医療センター (恒久5567野崎病院内) 電話54-8123 ※月曜から金曜9時から午後5時まで  市では、認知症の人やその家族が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、認知症カフェを設けたり、支援に必要な知識を学べる講座を開催したりしています。 認知症の本人や家族を支援しています! 認知症カフェ(オレンジカフェ)  認知症の人が生きがいを持って活動し、その家族も介護負担が軽減できる場として運営されています。市内のカフェでは、さまざまな情報交換が行われています。 認知症サポーター養成講座  認知症サポーターとは、認知症についての基本的な知識を備え、認知症の人やその家族の身近な理解者となる人のこと。講座は、市内の小中学校や地域、職場などで開催します。 大塚小学校での講座 進めようおいのじゅんび ②みんなで受け入れる 誰でも認知症になる可能性あり 何よりも本人の尊厳を大切に 誰にでも必ずおいは訪れ、認知症などの病気にかかるなどして、体が衰えていきます。最後まで住み慣れた地域で過ごすための心構えとは何でしょうか。「認知症の人と家族の会」の吉村照代さんに聞きました。 プロフィール 認知症の人と家族の会宮崎県支部世話人 よしむらてるよさん 看護師、助産師として病院に勤務後、平成5年に「認知症の人と家族の会宮崎県支部」を設立。 「みんなで受け入れる」3つのポイント 大切なのは本人に寄り添うこと 変わるべきは家族自身 周りに助けてもらうこと 「認知症の人と家族の会」ではどんな活動をしているのですか?  認知症の人やその家族が気軽に情報交換できる集いを開催しているほか、会報の発行、電話相談や認知症に関する講演活動などをしています。また、個人の活動として認知症カフェに関わっています。 認知症カフェにはどんな人が集まっているのですか?  認知症で家にこもりがちだった人とそのご家族が中心です。私たちと一緒にコーヒーを飲んだり、おしゃべりをしたりして過ごします。初めて来た時に抵抗があった人も、自分の役割や楽しみを発見すると、毎回通ってくれるようになります。 そうなると家族も気持ちが楽になりますね。  そうですね。ある認知症の人は、カフェで生き生きと活動するようになったのですが、付き添いのご家族も「こんなに元気があることが分かってうれしいです」と言っていました。ご家族も、介護者同士での会話がとても楽しみだそうです。 認知症を家族として受け止めていく上で、どんなことが大切でしょうか。   まず、認知症は特別なものではなく、誰もがそうなる可能性があることを理解したいですね。それに、私は父をはじめ、3人の認知症の家族を介護してきましたが、そこで感じたのはいかにその人に寄り添えるかということ。同じ話を繰り返されても「何をいってるのよ!」と責めるのではなく、本人の声に耳を傾けましょう。そうすることで本人は安心し、分からないことが多くなったとしても、ここは自分のことを受け入れてくれる心地よい場所だと感じて、穏やかに過ごせるようになります。本人だけではなく、家族も楽になると思います。 本人を尊重し続けるということが大切なんですね。  はい。そうするには、家族は我慢しているだけでは大変です。カフェでは「認知症の家族を怒ってしまった。私はだめな介護者だ」と自分を責める人もいるのですが、決して責めなくていい。認知症であろうがなかろうが、本人を特別に扱う必要はないんです。もし罪悪感があるなら、カフェでおしゃべりのネタにすればいい。集まる皆さんもみな同じ立場なので「わかる!私も実は…」と話が弾みます。認知症に限らず、そうしておいをみんなで受け入れていくことが何より大切だと思います。 ポイント 家族を家族と認識できなくなっても、それをみんなで受け入れることで本人が安心できるようにすることが大切。 家内がもうすぐ帰りますので。 ありがとうございます。 お構いなく。 やってみよう!認知症チェック  次の項目は、該当するものが多いほど認知症のリスクが高いことを示しています。自分や家族のチェックをし、気になる項目があれば、かかりつけの医師や専門医、地域包括支援センターに相談してください。 □食事の後、食べたこと自体を忘れる □同じことを何度もいったり、したりする □忘れ物が増え、いつも探し物をしている □一人になると怖がったり不安がったりする □財布や衣類を盗まれたといって人を疑う □趣味だったものに興味を示さなくなった ワンポイントレッスン! 加齢によるもの忘れと認知症は違います 「会った人のことが思い出せない」というのは誰でもよくあるもの忘れで、加齢による生理現象です。一方、認知症は「人に会った」「食事をした」などの行為そのものを忘れてしまう病気で、症状の現れ方も異なります。 「おや?」と思ったら地域包括支援センターへ  地域包括支援センターは、高齢者の相談窓口として、市内に19か所設置されています。社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーという3つの職種がそれぞれの専門性を生かし、連携しながら高齢者のサポートをしています。お気軽に地域包括支援センターにご相談ください。 《こんな相談を受け付けています》 ●介護保険や福祉サービスのこと ・介護保険の利用方法がわからない ・どんな福祉施設があるか知りたい ・一人暮らしの親が心配 ●介護に関すること ・時には介護の手を休めたい ・認知症について話を聞きたい ・手すりの設置を検討している ●権利を守ること ・悪質な訪問販売に苦慮している ・お金や通帳の管理に不安がある ・近所の高齢者の体に傷やあざがある ●その他の相談ごと ・足腰や健康に不安がある ・高齢者が楽しめる活動に参加したい ・退院後の生活に不安がある 連絡先一覧はこちら