屋根のイメージ
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大根の屋根のした、
手料理を囲む

全国でも珍しい、冬の風物詩

青空と山々に囲まれた秘境の地、宮崎市田野町。ここに約60年続いているという全国でも稀な農業スタイルがある。冬の風物詩で「大根やぐら」というものだそうだ。大根が100メートルほどの長さにずらりとぶらさがっている。やぐらの下に入ると、そこはまさに大根のトンネル。幻想的でもありユーモラスでもあり見事な景色がずっと先まで伸びているのだ。

大根やぐら

この大根やぐらがどう作られているのか、まるごと体験してみることにした。まずは、腹ごしらえから。体験を受け入れてくれたのは、約80世帯からなる田野町八重地区のみなさま。自慢の手料理でもてなしてくれた。食べる場所はなんと、大根やぐらの下。ゴザを敷きコンテナをテーブルがわりにして、集落のお父さんお母さんが作った手料理を囲む。メニューはしし鍋に煮しめ、バラ寿司、さまざまな漬物の食べ比べ。「買ってきたのは油揚げだけよ。あとは山と畑で取れたもんよ」とお母さんたち。ぶら下がる大根の隙間からは青空がのぞけ、時々「わにつかおろし」という北西の冷たい風が吹いてくる。寒いなかでも大自然の恵みがたっぷりと詰まった料理と集落の人とのおしゃべりが体も心もほっこりと温めてくれる。

大根やぐらを屋根にお昼ご飯を食べる写真
味噌汁の写真
お惣菜の写真

やぐらの中で食べる手造りの料理。素朴だけど贅沢な食事だった。

やぐら作りをお手伝い

お腹を満たしいよいよ体験スタート。まずは大根の収穫からだ。
ふかふかの田んぼに足を取られそうになりながらも大根を土の中から引き抜いていく。干し大根用に品種改良されたという大根は長さが60センチほどもある。力いっぱいに引っ張って大根が土から顔をだしたときは快感だ。土にまみれることに最初は抵抗があったものの、慣れるとなんだか土が気持ちよくて楽しくなってきた。収穫した大根を、次はやぐらにかけるために2本一組にしていく。専用の機械に大根を置くと、一瞬で2本の大根の葉っぱを麻縄でしばってくれた。次はその大根をきれいに洗浄。今度も専用の洗浄機に大根を通すと、土がついていた大根が真っ白になって出てきた。

大根を引き抜いた様子
土がついた大根の写真

大根と一緒に風にふかれて

大根干しの準備が整った。いよいよ、やぐら干しだ。
やぐらに登ってみると青空が近く、山から吹きおりてくる冷たい風が体にあたる。大根と一緒に自然を体いっぱいに浴びているのが寒くてもなんだか気持ちいい。下から竿で渡してくれる2本1組の大根を竹にかけていく。一つまた一つとかけるたびに大根のカーテンができていく。
今度は下におり、やぐらに登っている人に竿で渡してみる。30分前に畑で収穫したばかりの大根は水分をたっぷり含んでいてみずみずしい。その分、重さが半端ない。1組で2キロはくだらない重さの大根を手がプルプルと震えながら竿で渡していく。2人1組になっての共同作業は、初めて出会ったツアー仲間とも打ち解けていけた。子ども達もやぐらに登り重い大根を、全身を使って受け取り必死で干していく。やぐらは楽しい遊び場となっていた。

大根やぐらを登る様子
やぐらに大根をかける子供
やぐらに大根をかける女性

収穫したての大根を竿で持ち上げ、やぐらに干していく。

レシピはない、おおらかな味

体験の最後は干し大根での「はりはり漬け」づくり。干しあがった大根を刻み、砂糖と醤油と酢を目分量で合わせ味見をしながら漬けていく。「分量のレシピはないよ。全部、勘でしているとよ。砂糖も黒砂糖を使ったり白砂糖を使ったり家庭で違うから、食べ比べするのが楽しいよ。好みで唐辛子やゆず、さきイカなどを加えるのもいいよ」。集落のお母さんたちはここの自然と同じように大らかで温かい。
体験が終わるとみんなで「ナナッチャ」時間。「ナナッチャ」というのはここ田野町に昔から伝わる休憩文化。朝早くから始まる農作業はお腹がすく。10時、15時になるとやぐらの下でおにぎりやおやつを食べながら一息いれるのだそうだ。私たちも体験を振り返りながらお母さんたちが握ってくれたおにぎりと作りたての漬物を食べ比べしながらの「ナナッチャ」気分。
大地の恵みをいっぱいに感じ、地元の人との触れ合いに身も心もほっこりとなった。作った漬物をお土産に体験は終了。

はりはり漬けを作る様子の写真
おにぎりの写真
はりはり漬けとおにぎりの写真

「はりはり漬け」を作りながら、ナナチャ気分を味わう。

歴史と自然をのんびり味わえる

大根やぐらがあるのは宮崎市内から車で30分ほどのところに位置する田野町。大根やぐらは全国で日本一の生産量を誇る干し大根のシンボルとなっていて、日本農業遺産登録への取り組みをしている。やぐらの始まりは昭和35年頃、鹿児島の大根やぐらを参考に建てられたのがはじまりだそうた。鹿児島県のたくあん業者が黒色火山灰の土壌と「わにつかおろし」という北西の風が大根栽培に適していると注目し、次第に農家が率先して大根を干しはじめ今に続いていると言われている。

今回のやぐら体験を受け入れてくれた國部新一さんは「18歳のときから農業を手伝うようになって54年になる。毎朝6時頃から妻と息子夫婦の4人で作業をしている」と教えてくれた。
自然の恵みのなかで育った大根を自然にさらして作り上げていく干し大根。限りなく広がる大自然の中での体験は歴史を知り、人の温かさに触れ、おふくろの味に親しむことができる。日常から心を開放するとっておきの田舎暮らしが楽しめる1日だった。

息子さん夫婦の笑顔の写真

終始、笑顔で対応してくれた息子さん夫婦。とても素敵なご家族だった。

自然もごちそう

自然もごちそう

海も山も空も風も
いただきます

自然もごちそう
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