
〆は、あったかにら雑炊

何といっても出汁の美味さ
夜も更けたニシタチの西銀座通り、柔らかな灯りと木彫りの看板が印象的なお店があった。ニシタチの商売繁盛の神様、恵比寿大神の隣にあるのが、ぞうすいの店お通だ。宮崎でお酒のシメと言えば、ここお通の雑炊もまた古くから親しまれてきた味だ。何といっても上品で旨味が最大限に引き出された出汁が抜群に美味い。味付けは、地元の醤油屋さんに特注で作ってもらった醤油のみ。この出汁に麦ご飯と具材を入れ煮立たせ、頃合いを見て溶き卵をまわし入れ、火を落としてからニラが入る。にら雑炊は、お店の創業当時からのメニューで、テーブルに運ばれてくるまでに程よく火が通ったにらがプリッとしていて、ふわふわの卵に旨味たっぷりの出汁がしみじみとお腹に染み渡る。お通のメニューは、クリーム雑炊やキムチ雑炊など、今ではその種類も多く、若者からお年寄りまで様々な人で賑わう。

お通の恋、一生涯の恋
そういえば、印象的な木彫りの看板には、ある女性が描かれている。店名の由来ともなった吉川英治の小説「宮本武蔵」に登場する、武蔵の幼馴染であり想いを寄せ合った女性、お通その人だ。店内に飾られている、女優さんかな?と思うほどに美しい女性の写真が気になり聞いてみると、この女性こそが創業者の古市玲子さんなのだそうだ。その昔、戦争に行ってしまった想い人が忘れられず、親の決めた見合いから着の身着のまま飛び出し、ふと降り立ったのがこの宮崎だったのだそうだ。その後、玲子さんの想い人は戦死してしまうという悲しい結末を迎えるのだが、生涯その人を想いひとりを貫いた自身の人生と、お通の生き方に強い絆の様なものを感じたのかもしれない。お店は、20年前に2代目福原優一社長へと、引き継がれた。雑炊の味が県外でも話題となり、今では鹿児島、福岡、東京にも店舗を構える程の規模となった。創業からの味と先代のお店への哲学は、今でも変わらずに大切に引き継がれている。
