
屋台から始まり71年

この路地に人情あり
宮崎市の繁華街、ニシタチの路地にある老舗のおでん屋。電飾の看板、暖簾、格子の引き戸、なんとも粋でノスタルジックな佇まいだ。
ガラガラと音を立て木の引き戸を開ける。カウンターに座るお客さんたちで賑わっている。カウンター越しにあるおでん鍋にはあふれんばかりの種が出汁につかり、いい香りが店内に漂い空腹を刺激する。

カウンター10席、座敷8席のこぢんまりとた店内。大将が隣のお客さんと話しているとその話題に反対側に座るお客さんが入ってくる。たちまちカウンターは一つの話題で意気投合していく。これぞ「飲みニケーション」だと嬉しくなった。

食べたいおでんをオーダーすると1つの皿に盛ってお玉でつゆを注ぎ入れてくれる。まずは定番の大根。高さが10センチほどもある大きさで箸を入れるとスーッと崩れていく。口の中でジュワーっと出汁がやさしく沁み渡る。牛すじはとろっとプリプリ。臭みなく旨味だけが口に広がるのは丁寧な下ごしらえのなせる技だ。おすすめのロールキャベツは出汁が染み込んだキャベツの甘味、そして噛んだときの肉汁がたまらない。もちろん焼酎との愛称も良好。ついつい飲みすぎてしまいそうだ。
「ただいま」と暖簾をくぐる

「よんしゃい」の創業はなんと昭和24年、大将の母親が県庁前で始めた屋台から続いているそうだ。県庁前に屋台があった事に驚く。そして今の大将が引き継いで30年。71年に渡り暖簾を守ってきた。
仕込みを始めるのは朝の9時。まずは昆布と鰹節で出汁をとる。時間をかけて丁寧に丁寧に。この作業を2回転させながら大根や牛すじ、ロールキャベツの仕込みも進める。大根は米ぬかで一度煮込み、味が染み込みやすいように繊維を柔らかくした後に出汁のなかで炊く。ここも丁寧に。
出汁は70年間継ぎ足して使っているが、味を守るのではなく進化させ続けているそうだ。「より美味しくなるようにいつも考えてるんですよ」と大将はいう。今年で75才。「もうお店を閉めようと何度も思ったのだけど、『ここがないと行く店がなくなる』というお客さんがいてくれるのでね、やれるところまで頑張ろうと思って。」
ここには50年以上通い続ける人や、出張のたびに楽しみにしている人たちが「ただいま」と暖簾をくぐればおおらかな大将が迎えてくれる。
老舗のおでん屋は、まるで故郷のような存在なのかもしれない。