令和8年9月13日(日)、宮崎公立大学にて『聴こえと認知症に関する講演会』を開催し、100名の方にご参加いただきました。
講演会の内容をご紹介します。
【講演1】耳の聴こえと認知症の関係
【講師】宮崎大学医学部耳鼻咽喉・頭頚部外科学 髙橋 邦行 教授
1.聴こえるとは
「聞こえる」が音を自然に受動的に感じ取る状態であるのに対し、「聴こえる」は意識して積極的に聴く姿勢を指す。音声コミュニケーションは音から言葉の意味やイメージ(言語概念)を形成するため、思考力や学習能力、脳の認知機能に深く結びついている。
2.聴力の評価
難聴の程度は聞き取れる音の大きさ(dB)で分類される。例えば、日常会話レベルの音が聞き取れる軽度難聴(40dB程度)であっても、相手の声が小さな囁き声のように届き、言葉の細部がはっきり聞き取れないことがある。特に加齢による難聴は高音域から聞こえにくくなる特徴があり、母音や子音の識別が難しくなって聞き間違いを引き起こしやすくなる。
3.高齢化と難聴、認知症
認知症の原因となる要素のうち、約40%は予防可能とされている。中でも「難聴の対策」は認知症予防における極めて重要なカギであり、症状が軽度の段階から早期に対応することが大切である。
4.耳の構造と治療・対応法
難聴には大きく分けて以下の2つのタイプがある。
- 伝音難聴(全体の約10%): 音を伝える器官の障害によるもので、手術などによる治療が可能。
- 感音難聴(全体の約90%): 加齢や大きな音の影響で音を感じ取る細胞が傷つくことで起こり、一度低下した聴力を元の状態に戻すことは困難。
主な対処法として「補聴器」や「人工内耳」の装用が挙げられる。人工内耳は補聴器で十分な効果が得られない場合に使用される。聴力の低下を感じたら早めに耳鼻咽喉科を受診し、補聴器を使用する際は定期的な診察と適切なメンテナンスを行うことが重要である。
日本で補聴器の普及が進みにくい背景には、日本語の音域が欧米の言語に比べて低く難聴に気付きにくい点や、「格好悪い」というネガティブなイメージが挙げられる。しかし最近では、デザイン性に優れたおしゃれな補聴器も増えている。また、補聴器をつけることで周囲が聞こえづらさに気づき、配慮してもらいやすくなるという利点もある。
良好な聴こえを維持することは、家族や友人との円滑な交流を支え、ひいては認知症予防や豊かな暮らしにつながる。

【講演2】日々の診療における高齢者の難聴
【講師】宮崎県耳鼻咽喉科医会 会長 坪井 康浩 氏
1.難聴の3つの分類
- 伝音性難聴: 外耳や中耳など「音を伝える部分」の障がい。治療により改善が期待できる。
- 感音性難聴: 内耳や聴神経など「音を感じる部分」の障がい。加齢性難聴の多くが該当する。
- 混合性難聴: 伝音性と感音性の両方の要因が合わさった状態。
2. 主な事例紹介
症例1:耳垢(みみあか)詰まりによる難聴
耳垢が外耳道を塞ぎ炎症(外耳道炎)を起こしていた状況。安全に耳垢を取り除くことで、その場で聞こえが即座に改善した。
症例2:鼓膜炎と急性中耳炎
右耳に急性中耳炎と鼓膜炎を併発していた状況。適切な消炎治療と経過観察を行うことで、炎症および難聴がきれいに治癒した。
症例3:右滲出性中耳炎(鼓膜切開術)
痛みのないまま鼓膜の奥に液体が溜まっていた状況。鼓膜切開術により液体を排出したところ、聴力が20dB以上大幅に改善し会話がスムーズになった。
症例4:めまいを伴う難聴
めまいとあわせて眼振(目の動き)を検査。内耳や平衡神経のトラブルは難聴や耳鳴りを伴うため、双方の観点から総合的な評価と治療を実施した。
3. まとめ
- 即座に改善できる難聴もある: 耳垢詰まりや滲出性中耳炎のように、耳鼻咽喉科での適切な処置でその場で改善するケースが存在する。
- 放置せず早期受診を: 発症からの期間が短いほど改善の可能性が高まる。違和感を覚えたら「様子を見よう」とせず早めに受診をしてほしい。
- 早期の補聴器活用で健康維持: 治療での改善が難しければ早期に補聴器を装用することが大切。聴こえの維持は認知症予防や豊かな生活に繋がる。

【講演3】聴こえの検査から補聴器・人工内耳まで
【講師】宮崎大学医学部附属病院 難聴支援センター 永友 陽菜 氏
1.補聴器導入・装用の基本ステップ
補聴器は購入後すぐに完璧に使えるものではなく、段階的な調整とトレーニングが必要である。
- 検査・診察: 聴力検査を行い、医師が補聴器の適応を判断。
- 試聴・貸し出し: 個人の聴力に合わせて調整し、実際の生活環境で効果を体験。
- 評価・購入: 音や言葉の聞き取り改善度と快適性を確認し、納得の上で購入。
- 定期受診: 購入後も定期的なメンテナンスや音量の再調整を実施。
2.聴こえの検査と公的支援制度
【2つの基本検査】
- 標準純音聴力検査: 音の高さ(周波数)ごとの最小可聴閾値を測定。
- 標準語音聴力検査: 単音節の言葉を聞き取り、語音明瞭度(%)を評価。
【公的なサポート】
- 身体障がい者手帳: 聴力レベルや語音明瞭度(両耳50%以下等)の基準を満たす場合に交付。
- 補聴器購入費助成: 障がい者総合支援法に基づく補装具費支給制度や自治体ごとの補助制度を利用可能。
3.補聴器のリハビリテーション(慣れるためのポイント)
- 控えめな音量から: 拒絶感を防ぐため、最初は目標音量の7割程度から開始。
- 1日10時間以上の装用: 朝から夜まで日常的に装用し、脳と耳を音に慣らしていく。
- 段階的な音量調整: 定期通院で経過を見ながら、徐々に目標値まで音量を上げる。
4.人工内耳と周囲の話し方の工夫
- 人工内耳: 補聴器で十分な効果が得られない高度・重度難聴(適切な補聴器装用でも語音明瞭度50%以下等)が対象。
【周囲の協力・配慮のポイント】
- 正面で口元を見せる: 口の動きは言葉を補うヒントになる。
- ゆっくり・はっきり伝える: 大声で叫ばず、丁寧に発声する。

宮崎市補聴器購入助成制度について
宮崎市では「高齢者加齢性難聴啓発推進事業」の一環として補聴器購入助成を実施しています。
耳の聴こえの変化と上手に付き合い、毎日を元気に過ごしましょう!